20220322

カイコを利用した発現システムを用いて、組換えスパイクタンパク質の大量生産に成功

新型コロナウイルスへの効率的な防御免疫の誘導を示す研究結果を確認しました

~早期実用化が望まれる国産ワクチン開発の加速化に向けたアプローチ~

KAICO株式会社(福岡市西区、代表取締役:大和建太、以下:KAICO)と株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲充、以下「ユーグレナ社」)は、九州大学農学研究院・薬学研究院、鹿児島大学農学部、長崎大学熱帯医学研究所の研究グループと共同で、カイコを利用した発現システム「カイコ・バキュロウイルス発現システム※1」を用いて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に重要な役割を果たす組換えスパイクタンパク質※2の大量生産に成功しました。また、組換えスパイクタンパク質を抗原※3として接種することによるワクチン効果を高める物質としてアラムアジュバント※4を一緒に接種することで、より効率的な防御免疫の誘導を示す研究結果を確認したことをお知らせします。

本研究結果は、早期実用化が望まれる国産ワクチン開発の加速化とワクチン生産の効率化・安全性向上に向け、非常に有効なアプローチになるものとして期待されます。

なお、本研究結果は、2022年1月12日にスイスの学術誌「Frontiers in immunology オンライン版」(https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2021.803647/full)に掲載されました。

新たに出現したSARS-CoV-2 は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を世界的に蔓延させており、COVID-19の流行を収束に向かわせるためには、有効なワクチンを低コストで製造し、世界中に普及させる必要があります。

SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、宿主細胞への感染において極めて重要な役割を担っており、スパイクタンパク質を標的としたワクチンや治療薬の開発が有効なアプローチの一つであると考えられます。海外で開発され、すでに使用されているmRNA(メッセンジャーRNA)ベースのワクチン※5は、人体でスパイクタンパク質を産生するように設計されていますが、長期的な安全性・有効性・価格・温度管理などの観点から課題を抱えており、従来わが国で使用されてきた組換えタンパク質※6によるワクチンや不活化ワクチン※6との比較検証の必要性が指摘されています。

本研究では、SARS-CoV-2の組換えスパイクタンパク質を、「カイコ-バキュロウイルス発現システム」を用いて発現させ、マウスでの抗体産生能を評価しました。また、「カイコ-バキュロウイルス発現システム」によって産生されるスパイクタンパク質を抗原とし、ワクチンと一緒に接種することで効果を高める物質であるアジュバント※4についても検討しました。

※1 カイコに感染するバキュロウイルス(昆虫を主な宿主として感染するウイルスの一つ)を用いることで、一般的によく使用される培養細胞よりも高発現で、カイコの生体内で目的タンパク質を発現させる技術です

※2 病原性のウイルスや細菌などの生体に免疫応答を引き起こす物質のこと

※3 新型コロナウイルスが感染する際に、ヒト受容体に結合するために使用する主要な表面タンパク質です。スパイクタンパク質がヒト細胞受容体に結合した後、ウイルス膜はヒト細胞膜と融合し、ウイルスのゲノムがヒト細胞に入り、感染を開始できるようになります

※4 アジュバントとは、ワクチンと一緒に接種して、その効果(免疫原性)を高めるために使用される物質のこと。アルミニウム塩を主とするアジュバントをアラムアジュバントといい、古くより汎用されています

※5 新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の設計図となるmRNA(メッセンジャーRNA)を脂質の膜に包んだワクチン。このワクチンを接種し、mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、このmRNAを基に、細胞内でスパイクタンパク質が産生され、そのスパイクタンパク質に対する中和抗体産生や細胞性免疫応答が誘導されることで、新型コロナウイルスによる感染症の予防ができると考えられています

※6 組換えタンパク質とは、遺伝子工学的手法によりベクター上にクローン化されたDNAから転写、翻訳されたタンパク質です※7 不活化ワクチンとは、ウイルスや細菌の病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを取り出してワクチン化したものです

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