カイコ-バキュロウイルス系組換えタンパク質
New! タンパク質発現系 ③カイコを用いたタンパク質製造のメリット・デメリット
今回は、カイコバキュロウイルス発現系を用いたタンパク質製造のメリット・デメリットについてご紹介します。医薬品製造で一般的に用いられている大腸菌や酵母、動物細胞などの発現系と比較しながら解説していきます。
大腸菌や酵母は、従来から医薬品や研究用タンパク質の発現に多く用いられてきた微生物ベースの発現系です。一方で、カイコ-バキュロウイルス発現系にはこれらにはない、以下のような利点があります。
<メリット>
- 高次構造を持つタンパク質の生産が可能
- カイコは真核生物であるため、複雑な立体構造や翻訳後修飾を伴うタンパク質生産が可能。
- 培養設備が簡便
- カイコがバイオリアクターの役割を担うため、スケールアップ検討が比較的容易である。また、少量多品種のタンパク質生産に優位性がある。
- 発現成功率が高い
- 特に高分子量タンパク質や膜タンパク質など、他の系で発現困難とされる分子でも、発現に成功する場合が多い。
<デメリット>
- 大量生産ではコスト効率で劣る可能性がある
- 数トン単位で生産するためには一定の飼育スペースや管理体制が必要であり、微生物系に軍配が上がる場合がある。
- カイコ生体を用いた医薬品製造における実績やノウハウが発展途上
- 大腸菌・酵母は長年にわたり医薬品製造に使われていることから、スケールアップ・品質管理・GMP対応などへのノウハウが蓄積されている。一方、カイコバキュロウイルス発現系はカイコ生体を用いた医薬品の製造経験がないため、規制当局への対応には追加的な検証・開発が求められる。
動物細胞発現系は、ヒト型糖鎖の付加や高い発現量が期待できるため、バイオ医薬品で広く使用されています。しかし、カイコ-バキュロウイルス発現系は以下の点から魅力的な代替手段となり得ます。
<メリット>
- 培養コストが圧倒的に低い
- 動物細胞培養には専用の無菌環境や高価な培地が必要だが、カイコ飼育はコスト効率に優れている。
- 発現量が同等あるいはそれ以上になるタンパク質も存在
- タンパク質によっては、動物細胞を上回る発現量が得られるケースもある。
- 欧州における動物保護規制の対象外
- 倫理的・法的な観点から利用ハードルが低い。
<デメリット>
- ヒト型糖鎖の付加が課題
- カイコが持つ糖鎖修飾能はヒトと異なるため、医薬品用途では糖鎖エンジニアリング技術(ヒト化糖鎖の導入)が必要となる場合がある。
- 機能性に差が出る可能性
- 特定の受容体や酵素などでは、微細な翻訳後修飾の違いにより、ヒト由来の細胞と比べて活性や安定性に差が出る場合が報告されている。
以上、医薬品生産の視点から見たカイコ-バキュロウイルス発現系の特性について、他の発現系との比較を通して、その立ち位置を概観しました。今後の製造技術や品質要求の高度化に伴い、本発現系の役割はさらに重要性を増すことが期待されます。